【視察報告】明石市 更生支援について(2019年7月17日)

明石市にて、更生支援の取組みを視察しました。

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ーーーーー目次-----

【課題1】税財源を投入した重大犯罪者への更生支援に、市民理解が得られるか。… 

【課題2】市町村の福祉的支援が担うべき範囲はどこまでか。… 

 

●明石市とは?

兵庫県明石市は人口298,399名(横須賀市の0.75倍)、面積49.42平方キロメートル(横須賀市の0.49倍)のまちである。淡路島と本州をつなぐ明石海峡大橋で知られ、市役所庁舎からは播磨灘を眼前に望むことができる。市の東側と北側を神戸市と隣接しており、高度経済成長期以後の発展において阪神の都市圏との密接な関連がみられる。

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近年の明石市は、大胆な福祉政策を行うまちとして注目されている。「第2子以降の保育料完全無料化」「中学生までのこども医療費の無料化」をいずれも所得制限なしでいち早く実施した上、2017年1月には明石駅前の再開発ビル内に、公共図書館「あかし市民図書館」・大型の民間書店・子育て支援施設「あかしこども広場」を同居させるなど、こどもを核としたまちづくりを行っている。その他、「あかし里親100%プロジェクト」(里親制度への理解や登録の促進)、高齢・障害・子育てなど福祉に関する悩みの総合相談窓口となる「地域総合支援センター」の整備、商業者や地域の団体が障がいのある人に点字メニューの作成、チラシ等の音訳、コミュニケーションボードの作成など必要な合理的配慮を提供するためにかかる費用を助成する制度の創設など、あらゆる人を包摂する、特色ある福祉政策を推し進めている。

 

●「つなぐ」「ささえる」「ひろげる」の3つの柱で展開する更生支援

更生支援は、あらゆる人にやさしいまちを目指す明石市の特色ある施策のひとつである。明石市は、更生支援に取り組む上での課題意識として、市Webサイトで ①触法障害者の存在 ②再犯防止の重要性 の2つを挙げている[1]。①の触法障害者とは、「軽度の知的障害者や高齢認知症者のうち、地域で自立した生活ができずに軽微な犯罪を繰り返している人」を指す。犯罪を繰り返してしまう原因として、福祉のセーフティネットから漏れていること、地域で孤立していること等を挙げている。②については、検挙人員に占める再犯者の割合「再犯者率」が上昇傾向にある近年の状況に鑑みても、犯罪者の抱える特性に合わせた施策(出所後の居場所と就労等の出番の確保等)が必要であることを指摘している。

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明石市は、更生支援においても、全国に先駆けて取り組んできた。「再犯の防止等の推進に関する法律」(通称:再犯防止推進法。2016年12月施行)の施行前から、独自に「更生支援コーディネート事業」(図2※1および図3)に取り組んでいる。同事業は、対象者(つまり罪を犯してしまった人)と面談し、必要な支援・調整を実施するものであり、2018年10月からは明石市社会福祉協議会を委託先として実施している。入口支援(=操作・公判段階の人に対する支援) と、出口支援(=刑務所などから出所する人に対する支援) の両面から、適切な福祉施策への接続を目指す。例えば、事件が発生し、対象者(被疑者)が検察に送致されたものの、知的障害を有するのではないかとの懸念が生じた際に、検察は社会福祉協議会に相談する。相談を受けた社会福祉協議会側は、対象者を適切な福祉的手段につなぐ。刑事司法が、福祉的手段に関する知識を豊富に有する社会福祉協議会と連携し、対象者をセーフティネットへとつなぐことができる事業である。

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また市は同年、刑事司法機関、専門職団体、当事者団体、支援機関等の情報交換の場として「更生支援ネットワーク会議」(図2※2)も開始した。罪に問われた人等の更生支援・再犯防止に向けた連携や支援の在り方を日頃より検討する場として機能している。なお、同会議は、関係機関の長が顔を合わせ、更生支援の大きな方向性を確認する場であるが、具体的なケースについて実務者級が細かく検討を行う場の開催についても話は出始めている、と今後の深化の可能性も示唆されている[2]

このほか、更生支援フェア(図2※3)の開催や、広報誌での情報掲載を通じ、「更生支援」という市民になじみのない分野への理解促進を図っており、これらを明石市は「つなぐ」「ささえる」「ひろげる」の3つの柱と捉えて取り組んでいる。

開始後実質3年の実績において、高齢が26件、知的障害が25件を記録している。福祉的支援のセーフティネットにつながっていない市民の存在と、施策の必要性が感じられる。なお、3年で合計82件という実績について担当課長は、「相談を受けて動くという事業の性質上、この件数が多いのか少ないのかについては、なんとも言えない」と述べている。

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●刑事司法と福祉的支援の考え方の相違にみる課題

刑事司法においては「正義の実現」、すなわち、罪を犯した人に対し、捜査公判活動を通じて事件の真相を明らかにし、適切な刑罰を科すことで、被害者や社会を守ることが強く意識される。更生支援においても、どちらかといえば、「犯罪の防止のために支援する」というとらえ方が強い。一方、福祉関係者においては、「更生支援は『あたりまえ』の仕事であり、支援が必要だから支援するのであって、結果として再犯が防止され、安心・安全につながる」という側面を大切にする。触法障害者は、セーフティネットにつながることができなかったがゆえに罪を犯してしまったのであって、支援されるべき存在としての側面が強く出る。

両者の相違については、明石市更生支援及び再犯防止等に関する条例第1条(目的)「~罪に問われた者等の円滑な社会復帰を促進して共生のまちづくりを推進し、~(中略)~市民が犯罪による被害を受けることなく、すべての市民が安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする」のように、折衷的な記述として議論の結果を一旦はみているが、今後想定される課題も見えてくる。

 

【課題1】税財源を投入した重大犯罪者への更生支援に、市民理解が得られるか。

まず、現在のところ、窃盗や軽度の暴行傷害等の軽微な犯罪しか対応の実績はないが、仮に重大犯罪者への更生支援に対し税財源を投入し市の施策を行う場合、はたして市民理解を得られるのか、という点が挙げられる。市民理解を得るためにも、3つの柱のうちの一つ「ひろげる」として広報啓発活動等に励んでおり、また、条例上も罪状は特に軽微なものに限定しているわけではないが、横須賀市で更生支援の取組みをさらに進めることを検討するとなったとしても、慎重に議論せねばならない点といえる。

 

【課題2】市町村の福祉的支援が担うべき範囲はどこまでか。

上記の通り、現状は軽微な犯罪への対応実績のみであるが、これを仮に性犯罪や薬物犯罪の被疑者に関する相談にまで広げるとなると、社会福祉協議会では担いきれないことが想定される。視察時ヒアリングにおいても、「あくまでも解決のツールは福祉的手段なのだから、犯罪防止の視点に立ちすぎなければ、福祉の専門家が対応するので、機能していくだろう。しかし、性犯罪、薬物の犯罪者にまでリーチすると、それは福祉的支援で日頃社協が接していた人とは異なる部分もあるので、難しいだろう」と担当課長は指摘しており、ごく普通の社協である明石市社協に、何をどこまで担ってもらうのか、という範囲決めも重要な論点となる。犯罪者の円滑な社会復帰の促進は、市町村単位のみで担いきれるものではない。例えば性犯罪・薬物犯罪への福祉的支援に関する知見の集約は県単位において行うのもよいのではないか、と担当課長は述べていた。

 

●終わりに

「刑事司法側からすると、福祉的知識が必要だなとおぼろげながら感じるも、市役所のどこに相談すればいいかわからない。なので、福祉窓口に、刑事司法側の案件にも対応できる窓口があれば、相談しやすい」と担当課長の話にもある通り、総合相談窓口の存在は、更生支援においても効力を発揮すると想定される。明石市においては、先に述べた通り2018年4月から市内6か所設置されている「地域総合支援センター」が、保護司の面接場所としても機能している。福祉政策は、領域を超えて有機的に連携するため、「更生支援」の枠にとどまらない議論が、横須賀市においても必要とされる。

 

[1] https://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/kousei_shien/torikumi/torikumi.html 2019/7/19最終アクセス

[2] 視察時、担当課長へのヒアリングによる。